「質屋の風景」
07.08.12 記

この歳で会社勤めなら、今ごろ店頭に出ることはまずない。

普通は部下の若い者が出てお客様に応対している。

しかし質屋は何歳になっても自分が店に出んならん。

だから少しも外出できない。

 

毎日、品物に値を付けて預かったり買ったり。

質札を書いて、お金を渡して、流期を説明して、

特徴を控えて、蔵になおして、台帳を書いて。

ぜんぶ自分でする。そんなことの繰り返し。

 

毎年お盆が近づくと炎天下の路上で自分の影を見る。

すると無音の中にジィーという蝉の声のようなものが聞こえる。

ある時は焦っているような、

ある時は何かに急かされているような。

 

親も長姉もこの音を聞いて生き急いだろう。

しかし私はこれでいい。

今まで何枚質札を書いただろう。

これから何枚書くだろうか。

 

 

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